産業医学におけるclinic

産業医学においてclinicalとはどういう意味だろうか。概して、産業医学は衛生学・公衆衛生学における環境医学の一分野である職場における健康問題をテーマにしている基礎医学だと考えられている。私たち産業医学をやっている人間は基礎医学よりはむしろ臨床医学に似ているし、また、完全に臨床医学でもないが純粋な基礎医学では到底ないという実感の元に生きている。まるで蝙蝠のような存在である。別の分け方では社会医学というものがあり、法医学などを含んでこう呼ぶ。この呼び名は実にしっくり来る。実際には労災病院のように病院自体が産業医学の実践の場、最前線となっているところもある。また、企業内診療所や企業立病院産業医学の現場であり診察室を備えているので産業医clinicと考えてもよいだろう。
 こうした診療所機能があるときに、産業医学において必要なスタッフは産業看護職(産業現場の保健師、看護師をまとめてこう呼ぶ)以外に、作業環境測定士なる存在だろう。米国ではindustrial hygienistと呼ばれる労働衛生の専門家である。病院には個々人の臨床検査をするために臨床検査技師放射線技師などがいて生理検査、血液検査、放射線医学検査などをおこなう。産業医学クリニックを機能させようとすれば、このような臨床検査に加えて、産業現場を測定する作業環境測定士が必要になる。また、産業医学が企業におけるあらゆる健康問題を扱うため、臨床医学の分野で言えば、内科、整形外科、精神科など多岐にわたる分野をカバーする必要があり、現在の大きな問題の一つがメンタルヘルスであることを考えれば臨床心理士産業カウンセラーを配備しておくことも重要かもしれない。
 こうした機能(ファンクション)を持つ機関としては労働衛生機関がその候補に挙がるだろう。実際、大学の衛生公衆衛生学でスタッフをしていた先生がこうした機関を仕切っておられる場合があり、そのような労働衛生機関ではハイレベルな産業保健活動がされていると思われる。一方で、労働衛生機関では膨大な健診を抱えこなすのがやっとという実情もあるだろう。また、折角の産業医のアドバイスを企業が十分理解せず、ややこしいことを言うなら来年からは健診機関を変えると言われてしまう可能性もある。
 さて、題目から益々離れていくようで収拾がつかないが、産業医学におけるclinicいくつか存在はしているものの、様々な存在形態があり、私自身が考えるものとはあまり一致していない。どうにか産業医学クリニックが形にできると面白いと思うのだが…