Amati のバイオリン

いよいよ明日帰国となり、最終日はオーケストラを聴きに行こうと同行の村尾さんとシンフォニーホールに向かった。彼は上野浅草フィルハーモニーコンサートマスターを務める鬼才である。途中、Bein & Fushiと書かれたバイオリンの写っているポスターがあり、彼はしきりにこれを気にする。じゃあ、行ってみようとその建物に入ったところ、Suite 1014とこのビルの10階の一部屋にあるらしい。若い大学生と思しき人たちがエレベータが来るのを待っていたが、扉が開いてビックリ。おじさんがいすに座って扉を手で開け閉めしている。扉だけではなくサンフランシスコのケーブルカーみたいに手動で動かすエレベータだった。こういう古いものが残っているところに魅力を感じる。
 さて、そのお店についてみると、バロック式なのか通常の4つの弦に加えて共鳴用(とは村尾氏の解説)の4つの弦がその下を平行に走っている古いバイオリンを発見。「彼はバイオリニストなんだ。バイオリンを見せてくれないかい?」と頼んだところ、「ちょっと待ってて。今マネージャーが電話しているから。」と別室に通された。出てきたJoe Bein氏は創業者の息子らしく、にこやかな青年。アマチュア管弦楽団コンサートマスターを勤めていると村尾氏が自己紹介すると、これは日本の製作者が作っているバイオリンだ。すごくいいよと一つ持ってきてくれた。これを手に取った村尾氏はしばらく音あわせをした後、いきなりバッハのソナタを演奏し始める。バイオリンの箱が共鳴して音が飛び出してくるのが初心者の私にも分かる。昔10年ほどバイオリンをやっていた私にはこの演奏は衝撃的というぐらいによかった。途中、「この音程で正しいのかな。」と何度か首を傾げていたが、どうやら音併せに使ったピアノがちょっと狂っていたようだった。
 Joe Bein氏はしばらく帰ってこなかったが、1時間ほどして、「ごめんごめん、もう一つ持ってこようと思ってたんだけど、遅くなってしまって。これはAmatiの息子が作ったんだけれど、300年前のものでストラディバリウスと同年代のものだよ。どうぞ。」とまたいなくなった。どうやら村尾氏の演奏を聞いてものを持ってきているようである。これはバイオリンの箱の部分が弦と垂直方向に実に立体的にできていて美しい。持ってみると非常に軽い。古いバイオリンはだんだんと水分が抜けて軽くなっていくのらしい。子供の頃、重いバイオリンで練習するのが、嫌だったのを思い出した。お値段は640,000USD!!村尾氏は完全に取り付かれていたので、きっと何年か後にこのバイオリンは村尾氏の手元にあるだろう。