臨床研修制度

今でこそ臨床研修ではスーパーローテイトで研修することになっているが、私が研修医になったころはストレート研修が殆どで、衛生学や公衆衛生の講義でプライマリケアの話を聞いて、「それやってみたい」と言う人は、医局に属さないで研修を開始するか、衛生公衆衛生に入るしかなかった(少なくとも私の大学では)。同期で内科に入って「スーパーローテイトがやりたいんです。」と言ってみたが、させてもらえず結局あきらめた友人もいる。スーパーローテイトの研修はお客さんだとかモーチベイションに差があるとか医療の崩壊を招いているなど様々な批判もあるが、経験者としては臨床科に進んでいないのにこの年になっても救急車が来る病院で一人当直もできて、挿管など心肺蘇生もできるし、子供が来て輸液が必要でもちゃんとルートが取れるなど多少なりとも役に立っていると思う。北陸線サンダーバードで二回、国際線の飛行機で一回お役に立ったこともある。
 日本の医療が崩壊しかけているという指摘は、遅すぎるくらいの話で今までの安価で誰でも一定水準以上の医療にアクセスできる日本の特殊な医療制度は勤務医と看護師の過酷な勤務体制によってどうにか支えられてきたのであって、一つ間違えると倒れそうな状況であったのだと思う。臨床研修制度の導入は一つのきっかけになって、地域や特定の診療科での医師不足が表面に出てきたのだろう。病院で外来を開いている医師よりも経験豊富な医師が身近に開業しているのに、敢えて3時間待ちの大病院を選ぶ患者や夜中の一人当直の病院に子供を連れてきて「先生、小児科じゃないんですか」といぶかる親など世の中に対しての医療の過酷な状況の広報活動が十分でなかったということも反省が必要なのかもしれない。尤も、私自身は今は病棟も持っていないので夜中も呼ばれず、至って平和な毎日なので、そういう大学の研究者が医療政策の提言をしっかりとすべきなのだろうが、だいぶそういう分野とは離れたところで生業をおこなっている。
 Drコトーみたいな医師がやたらといるわけない(そんなすごい手術を孤島の診療所でやらないで!)といつも斜めに医療ドラマを見ているのは医療関係者だけなのか。