次回の講義は産業保健

大学時代、衛生学の講義の最初(だったと思う)に様々な職業現場を写したスライドを何枚も見せられて、「職業性疾病を書き出せ」と言われ、それに続いて講義があった。そして、最後の講義で、また同じスライドを見せられ、同じように職業性疾病を書けといわれた。最初は振動病などの古典的職業病をいくつかしか挙げられなかった学生たちも、最後には腰痛症、頸肩腕症候群なども上げられるようになった。
 医師会の産業医講習では何度も講師をしているが、医学部学生に産業保健を講義するのは始めてだ。うちの教室が産業保健を主なテーマにしているので、講師が豊富にいたためともいえる。私自身は国際保健をやりたいと思って公衆衛生を選んだので、大学院を終えて常勤産業医の就職先を進められたときも、それよりは臨床のほうがいいと思って内科医を選んだほどで、福井に来るまでは医師会の認定産業医の講習にも一度も行ったことがなかった。産業医学といえば職場健診というイメージが強く、職場での様々な有害要因を制御する公衆衛生活動という認識は殆ど無かった。
 職場の物理的、化学的、生物学的有害要因、作業態様による有害要因で引き起こされる健康障害を理解し、制御するためには臨床医学全般の理解とともに職場における従業員集団全体を見ることのできる公衆衛生的な視点が必要なので、かなりの応用力を要求される。また、法律の専門家へのアクセスを確保しておくことも重要だ。
 かかりつけ医と嘱託産業医というのは地域でも職域でも必要なプライマリケアの提供源となるはずなので、臨床医になる予定の学生が知っておくべき産業医学の基本というのが最も伝えるべきメッセージなのだろう。