地域職域連携

厚生省と労働省が一緒になって何年もたつが、健康日本21が始まった2000年前後から地域職域連携なるものが盛んに取りざたされている。主に地域保健を行っている人たちが推進派だ。現在、地域保健で行われる健康診断の受診率は大体30%前後であるため、地域住民の健康状態を把握しようと思っても把握できない。しかも、健康日本21によれば生活習慣病は予防が重要なので、30代や40代の人たちの健康状態を把握すべきなのだが、この年代人たちは基本健康診査の対象者には辛うじて(40歳以上)なっているが、日中職場にいるため地域健診には登場しない。一方、職場での健康診断は事業者(会社の社長)の義務として従業員に健診を受けさせて、労働基準監督署に報告しなければならないので、一定規模の企業ではほぼ100%の受診率である。この状況に地域保健の側が目を付けたわけである。
 私は福井市の健康日本21計画の策定・推進にも関わっているし、産業保健の側にもいるのでお互いの主張が理解できるが、それぞれの仕事をやっている人たちは、中々理解しあえないらしい。まず、職域保健(産業保健)が何をやっているのかということについての理解が皆無に等しい。そもそも、職域で一般定期健康診断なる通常の健診をやること自体が間違っている。欧米の教科書で産業医学に関してmedical screeningといえば、日本で言う特殊健康診断のことで、それ以外の健診はありえない。業務に基づいて健康リスクがあるので、それが大丈夫だと確認する、あるいは手遅れにならないうちに手を打つために健診をするのであって、その手前の予防措置(technological preventive measure)がより重要だからだ。勿論、就業時に結核の有無を調べる胸部エックス線やその他の感染症に対するワクチン接種などは必須である。ある推定によると、職場での健康リスクは通常の生活での千倍程度のリスクを許容している。例を挙げると、大気汚染防止法に基づく公開線上でのアスベストの濃度は10本/Lまで許容されているのに対し、職場では以前は2本/ccであった。現在はアスベストの発がん性が問題となり、0.03本/ccとなったので1000倍もはなくなったが、一般環境よりは高い濃度が許容されている。だからこそ、職場で有害物質を扱った場合には健康診断が必須なのであって、これこそが職域健診の主なものとされるべきで、決して“特殊な”健康診断ではない。
 一般定期健康診断を会社でやら無ければならない必然性は皆無といってよい。