今年は講義のコマ数が増えたせいもあり、準備にかなり時間をかけています。このぐらい学生が準備して聞きに来てくれればアメリカの講義みたいに質問がバンバン出て盛り上がるのでしょうか。公衆衛生・予防医学は非常に重要な分野ですが、臨床医になってから重要だと初めて感じるような分野です。医学生にとっては分子生物学を始めとした疾病のメカニズムのほうが魅力的に映るのでしょう。尤も、ロンドン大学の公衆衛生大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine)の先生も医学生に公衆衛生を教えるのは大変だ、動機付けが難しいといっていたので、わが国だけの問題ではないようです。しかし、わが国の公衆衛生大学院の評価は芳しくなく、そこを卒業しての就職の利点も医師以外の職種の方には殆どないのが現状です。私自身は医師なので複雑ですが、保健所や保健センターでの地域保健活動や厚生労働省での医療政策には医師であること以上に公衆衛生の基本的な考え方を習得していることが重要だと思います。OJTで身につくものもありますが、基本的な学習は一定期間缶詰でする必要があるでしょう。ロックフェラー財団によって戦後作られた日本初の公衆衛生大学院(文部省管轄ではないので学位を授与できないことになているが…)である国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)で保健所長は研修を受けることになっていますが、保健所にまず医師が少ないことから長期間研修に参加することができず3ヶ月程度研修で保健所長を任されることになります。もしこの人が保健所でもっとも公衆衛生に詳しい人だということになれば、かなり問題だと思います。
 さて、医師の1パーセント程度が公衆衛生分野で活躍しているので、100人いれば一人ぐらいはわが環境保健に入ってくれてもよさそうなものですが、未だに大学院生が入ってくれません。私にできることは公衆衛生の魅力を講義で伝えることぐらいしかないので、頑張って話をしようと思います。