疫学2:疫学研究の構成

キーワード: 研究目的、対象選定・標本抽出、疾病の定義、曝露要因の測定(対面調査、自記式調査、客観的測定)、統計学的手法(検定と過誤)、質問票作成の実際

緒論

臨床現場で出会う新たな発見をまとめる際にも、研究計画の立て方を知っておくことは有用である。疫学研究の評価は、臨床医となってもリスクファクターの管理、治療法による予後の差、などを検討する際に必ず必要となる。様々な臨床研究において統計学的手法が重要視されているのも疫学が公衆衛生の方法論にとどまることなく医学全体のロジックとして定着していることの現れであろう。これは医学が人間集団を対象としていることを考慮すると不思議なことではない。

研究目的

研究の出発点は明確な研究目的の設定である。臨床上出会った疑問や、必要性に迫られての命題もあるし、純粋に真実を知りたいという価値追求欲に駆られての命題もあるだろう。その疑問、命題といったものが、単純明快な研究目的、「肺がんの原因はタバコである」式の文章に置き換えることができるか、論理的な研究計画の設定のために最も重要である。
疫学研究には記述疫学(頻度調査)と分析疫学(因果関係の推論)の二つがあるので、その研究目的に応じて研究方法を使い分ける必要がある。上記の「肺がんの原因はタバコである」という研究目的を達成するためには、因果関係の推論を行わなくてはならないので、分析疫学の研究方法を選択するし、「この集団の中のB型肝炎ウイルス保持者は何人いるか?」という命題に答えるためには、記述疫学手法を用いて頻度調査を行うのである。
研究目的に対して、適切な研究方法を選択していなければ、研究目的となる疑問に明確に答えることはできない。

対象選定・標本抽出

目的が明確になったならば、次に、どのような対象を用いて研究を遂行すべきかを考える。「肺癌の原因はタバコである」という命題に答えるためには、どのような対象を選べばよいだろうか。喫煙の有無という因子と肺癌の有無という因子を両方測定できる対象でなくては、この命題に答えることはできない。喫煙者のいない集団を用いて喫煙と肺癌の関係を検討することはできないし、肺癌の罹患が期待できない集団(例えば15歳男子生徒1000人を10年間追跡するという計画)ではいかに喫煙者がいたとしても、肺癌と喫煙の関係は検討できない。

疾病の定義

疾病の頻度調査のみを行う場合も、疾病と曝露要因との因果関係を検討する場合も、どのように測定方法を用いて疾病頻度を測定しているかは非常に重要である。疾病の定義は一様ではない。場面によって、同じ疾病名でも内容が異なることがよくある。例えば、粉じんの吸入によって引き起こされるじん肺という病気を厚生労働省の業務上疾病統計から見ると毎年1000人を超える数が挙がる。これはじん肺法という法律に基づいておこなわれるじん肺検診の結果、じん肺ありとされた人の数である。このじん肺検診は、法律で粉じん職場と定められているかそれに順ずる職場で粉じん曝露を受けているということと胸部単純エックス線検査でびまん性の小陰影があるかどうかということのみで決定されている。一方、病院に受診した患者がじん肺と診断されるのは、胸部単純エックス線検査で同様のびまん性の小陰影を呈する、粟粒結核、サルコイドーシス、ヒストプラスモーシスなどをCT検査、その他の臨床検査で除外した後に診断されるのであるから、この二者は同じ疾病名であってもその定義がかなり異なる。研究目的によってはかならずしも後者のように精密な検査を行う必要がないことも多く、その研究目的に即して、適切な疾病の定義を与え、調査を行う。

曝露要因の測定(対面調査、自記式調査、客観的測定)

疾病と同様、曝露要因の測定も研究遂行の上で非常に重要な部分である。