石綿ばく露者の検診

国際じん肺CT分類の開発のために症例収集をしてきたが、建設業といっても主に木造建築を主にしている人たちの集団で胸部写真での検診をしてみて、かなり高濃度の石綿ばく露がないと発生しないと考えられている石綿肺が数例以上あるのには正直驚いている。木造建築主体といっても青石綿などが多く使われていた時代に年数回のゼネコン下請けの仕事が高濃度の石綿を吸入する機会となったのかもしれない。
石綿ばく露者に対する検診は現状では胸部写真を年2回というのが基本でじん肺陰影があれば医師の判断でCTを追加することになる。胸部写真でじん肺ありのものだけがCT撮影可というのも不思議な話だが、じん肺法ではじん肺有り無しはILO国際じん肺胸部エックス線分類に準じたわが国独自のじん肺標準エックス線フィルムを胸部写真と比較し決定することになっており、胸部写真でなしと判定されればたとえCTでじん肺陰影が指摘されたとしてもなしなのだ。尤も、これは日本だけの特異な現象ではなく、じん肺有り無しの基準についてはILO分類に基づいて胸部写真で決定するというのは米国でも諸外国でも基本的には同じだ。むしろ、ILO1/1以上でなければ石綿肺ありとはしないという国もある(米国など)なかわが国の標準写真はILO分類より早期のものを1型にしておりむしろ感度の高い検診をしている。したがって、日本の厚生労働省の役人の頭が固いからだという単純な話ではない。
CT検診ということを考える場合、上記の石綿肺などの良性疾患を対象とするという観点と肺がんや中皮腫などの悪性腫瘍を対象とするという観点があり、これを整理して考えなくてはならない。国際じん肺CT分類は主に前者を主対象とするものだが、CT検診という場合に良性疾患のみをターゲットとして10mGyもの放射線被曝をさせるということは到底考えられない。とすると対象を決定する際に良性疾患のリスクに加え、悪性疾患のリスクを検討し、このリスクの高い集団を特定して対象に設定しなくてはならない。年齢としては50歳以上、喫煙者(禁煙しているものも含めて)ということになるのだろうか。石綿のみでも25F*year/cc以上の累積ばく露があると考えられるものは肺がんリスク2倍として対象に含めてよいだろうが、この累積ばく露を算定するのはなかなか難しい。作業場の線維濃度測定のデータが少ないからだ。名取雄司氏らが測定公表している作業ごとの線維濃度は検討の資料になるだろう。